相続で「実行できない遺言書」の実例
法的に有効な遺言書を書くには、法律が定めるルールに従う必要があります。
法律が定める決まりごとをクリアしないと、有効な遺言書にはなりません。
ここでは「実行できない遺言書」の事例を見てみましょう。
そして、失敗事例を学び、反面教師にすることで実行可能な遺言書を書けるようにしましょう。
実行できない遺言書
実際に相続の現場で、実行できない遺言書がかなりの数に上ります。
一番多いのは、法律上の形式を満たしていない遺言書です。
しかし、それ以前の問題で実行できない遺言書もあります。
実行できない理由はさまざまあるので、あくまで代表的なものを列挙します。
□ 読めない遺言書
法的な効力の前に、使えない遺言書の代表例が「読めない遺言書」です。
笑い話かと思われますが、字が汚すぎて家族でも内容が読み取れない遺言書が存在します。
あまりに乱筆すぎる遺言書は、第三者が見たときに解読できずに困ります。
字は下手でも良いですが、せめて誰が見ても読める字で、丁寧に書きましょう。
□ 氏名の表記が戸籍どおりではない
さらに、自分の名前なのに、氏名の表記が戸籍の記載どおりではなく、不明な場合も多いです。
遺言書の作成者は、「どうせ家族が読むものだから」という気持ちで、普段の呼び名やあだ名で書いてしまうのです。
しかし、遺言者の人物特定ができないときは、遺言書は無効になってしまいます。
遺言書は、財産の名義変更のとき、手続きに関わる第三者が見ることも考慮に入れて、氏名は戸籍どおりに記入しましょう。
□ 誤字脱字がある
また、遺言書は基本的に誤字脱字があると、内容が正確に判読できなくなります。
正式な訂正方法を使用していない遺言書は使えない可能性があります。
二重線と訂正印を使用した正式な訂正方法で誤字を正しましょう。もしくは、いっそ書き直しをしても良いです。
とにかく誤字脱字に気をつけましょう。
□ 全文が自筆ではない
遺言書で不動産の表示をおこなう場合は、全文を自筆で特定します。書き方は、登記上の正式な表示方法で特定します。
よく無効になる遺言書は遺言者が「図のほうがわかりやすいだろう」という気持ちで、土地の場所を地図で示してあるケースです。
図や絵は「全文を自筆で」という法律上の書き方を満たしていないため無効です。
また、家族や親族ならわかるだろうと、目印で土地の境界を指示することは認められません。
例えば「イチョウの木から、2本目の杭まで」のように家族しか知らない目印を書かれても、第三者にはわかりません。
不動産は経済的な価値の高い財産です。名義変更の手続きに関わる第三者も慎重になります。
そのため不動産の特定は、登記上の正式な表記が求められるのです。
□ まぎらわしい文言
遺言書は、法定相続人に財産を残したいときに「相続させる」と書くのが一般的です。
一方、法定相続人以外の第三者に財産を残すときには「遺贈(いぞう)する」と書きます。
しかし「任せる」という漠然とした文言で書くと、解釈がまぎらわしいので使えない遺言書になる可能性が高くなります。
□ 共同遺言は禁止
一通の遺言書に、複数の人が同時に遺言を書くことは禁止されています。例えば、夫婦で一通の遺言書は無効となります。
□ 遺言能力がない人が書いたもの
遺言書を書くためには、遺言能力が必要です。民法961条には、満15歳以上であれば遺言を書く能力があると定めています。
つまり遺言を書くためには、遺言の内容を理解し、結果を認識する意思能力が要求されるということです。
このため病院に入院し、意識がもうろうとした状態では、遺言書を書く能力に疑いが生じるため無効になります。
同じく認知症の進んだ状態でも、遺言当時の意思能力が疑われ、無効になる場合があります。
□ 公序良俗違反の内容
遺言書であっても、公序良俗違反の内容は否定されます。
公序良俗違反とは、簡単に言い換えると、社会的妥当性のない行為のことです。
例えば、愛人契約や殺人契約は、公の秩序と善良な風俗に反しているので法律では保護しません。
そのため、遺言書においても、単に「A子に遺贈する」なら問題ないですが、遺言の文言が「愛人契約の謝礼としてA子に財産を遺贈する」だと公序良俗違反の疑いがあるので法的に有効な遺言書として認められません。
□ 負担責任の重すぎる遺言
負担付遺贈の場合、「ペットの世話をしてくれたら、Aに財産を遺贈する」という条件を付けた遺言も可能です。
しかし、いくら負担付遺贈でも、負担の重さが社会的な常識を超えている場合は実行することができません。
例えば「ペットを殺して同じ棺で埋葬してくれたら、Aに財産を遺贈する」という内容です。
生きているペットの命を奪うような社会的常識を超える負担は実行不可能といえます。
以上のように、実行できない遺言書の事例を紹介しました。
自分が作成した遺言が、実際に実行するのに問題ないか不安な場合は、専門家に添削してもらうと良いでしょう。
当事務所では、相続の経験豊富な有資格者がじっくりお客様のご要望をお聞きします。小さなことでもお気軽にご相談ください。